【PJ紹介】林邸の改修計画について

By flab, 2018年9月30日

こんにちは、宿毛プロジェクトリーダーの池田です。

前回に引き続き、この記事では本プロジェクトの簡単な紹介をさせていただきます。
今回は実際に行われた改修計画について紹介します。

全体を文化的(復原的)に改修することは、コスト、時間、活用法の少なさ、耐震性等から困難でした。
そこで林邸全体を大きく2つのエリアに分けて、改修の方針を立てました。

文化的改修:
竣工当時の姿を残していると考えられる和室の広間のエリアです。老朽化の激しい箇所が複数散見されました。特に北部・西部の平屋部分は重度の雨漏りとそれに伴う天井の一部崩壊と床の腐食が確認できました。これらの箇所については過去の使用方法から林邸の中心部であったと考察され、文化的な保存・活用の意義が高いと判断しました。そこで北部・西部については原則として基礎の補強程度による最低限の耐震補強と復元的改修を行い、林邸の歴史・文化を感じられるような設計を目指しました。

現代的改修:
竣工後に増改築されたと考えられ、近年まで居住スペースとして使用されていたエリアです。中央部・東部の二階建て部分については腐食が比較的少ないものの、構造的な負荷は平屋建て部分に比べ大きいことがわかりました。このことからこれらの箇所については大幅な改修や耐震壁挿入による積極的な耐震補強を行い、直売所機能や飲食機能などの道の駅的な機能を有する、外部へより開かれた空間となるような設計を目指すべきだと考えました。

強化ガラス耐力壁                             組子細工耐力壁

林邸の再背活用デザインを考える際に、現在の建築基準法の耐震基準に合わせるには大掛かりな耐震補強が必要でしたが、むやみに壁を増やすと広々とした雰囲気が損なわれる懸念がありました。そこで、東京大学大学院木質材料学研究室の稲山正弘教授とその学生と共に、透明な強化ガラス耐力壁と、新たな伝統的空間を創出する組子細工耐力壁の研究を行い、両者を使い分けることで、林邸の持つ開放感を活かす耐震改修を行いました。

飲食物販スペースはガラス張りとして明るく、中心に円形キッチンカウンターを設置して象徴的な場所として計画しました。
カフェの運営と地元特産品等の物販がされ地域外の人も気軽に訪れることができる場所となります。

大人から子供まで皆で楽しめるレンタルキッチンスペースは、南庭に出て屋外と一体に使うことができます。

座敷はお茶会や宴会、サークル活動などに使われます。
資料室では林邸の隣にある宿毛歴史館と連携し、元々林邸にあった家財や林邸、林家にまつわる資料の展示を行います。
座敷、展示スペースにおいては天井や床の間、欄間、長押、敷居、鴨居、引手、金物などは古材を最大限活用し、また広く一体的に使えるように開閉容易な雨戸やガラス耐震壁を採用しました。

政治家の家ならではの部屋であった見張り部屋では、玄関を見下ろして刺客や不審者をここで見張っていたと言われています。
またこの部屋には林邸に集った政治家を狙う刺客から逃れるため、廻り階段のほか、床の間を外すと一階への逃げられる隠し梯子が用意してありました。

月見の間は明治期には東側の松田川と月を愛でながら宴会ができる部屋として使われていました。

木々が生い茂り薄暗い状態であった北庭を、大きな桜の木を中心とした明るい庭へと変貌させました。
座敷と一体的につながりお茶会などが行われます。

瓦の損傷もひどく一部は焼き直したため、使用されなくなった瓦は地面のデザインとして再利用しました。

有造の兄から送られてきた樹齢一五〇年、植えられたのは三〇〇年前と言われている桜の木を、座敷に設けた炉の縁に使えるように再利用しました。座敷の框など随所に桜の木が使われています。また、正面玄関右手には立派な箱段(引き出し付きの階段)があり、改修にあたり現在の建築基準法に合わせて階段の一段ずつを低くするため、階段は一段増やしてあります。

こうして築130年の歴史があった林邸は宿毛市、さらには県内外から人を呼び寄せられ、明治維新に思いを馳せながら皆が滞在できる場所として生まれ変わりました。

修士1年 池田理哲

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