M2の墓田です。
更新が遅くなってしまいましたが、建築トークインの三回目の報告を行います。
前々回は企画概要の説明、前回は企画の流れを説明しましたが、今回は企画内容について詳しく触れてゆきます。
本企画はトーク中心の学生ディスカッションの場をコンセプトにあえて可視的な資料に頼らない形式を目指して渡辺真理氏発案者の下企画されました。メディアツールの発達で情報共有が容易になってきた中であえて言語という原始的手法の難しさを逆手に取り、議論を加速させてゆくことを目的としています。
全体的な構成は二部に別れており、一日目は司会進行が渡辺真理氏、モデレーターという形式で木下庸子氏、小嶋一浩氏、千葉学氏、山代悟氏が各班に入り、その下に学生がつくという形式で、主な議題は、中山間地域を舞台とした活動事例とそこから派生する話題に終始しました。二日目は司会進行、モデレーター役が学生スタッフにシフトし、議題の両輪を学生自身が回してゆく形式となり、主な議題は一日目で生まれた話題を発展させてゆく形式をとりました。
今回参加した大学は首都圏と地方都市圏、合わせて12校が参加しており、様々な立場を持った学生がシャッフルされた状態でディスカッションが進んでゆきました。多くの活動事例やその経緯が議題に挙がり、今中山間地域に必要な建築像とはいかようなものかを各班が独自の観点で話を展開してゆきました。
全体的に見渡す立場ではなく自分も一学生として参加したので、その立場からの所感を勝手ながら述べさせてもらいますと、特に地方都市部の大学が中山間地域をフィールドとして実践的に活動を展開していることから「研究の対象と射程」について興味を持ちました。
古谷研究室は首都圏に位置する大学ですが、新潟県上越市の月影小学校改修計画や島根県雲南市の都市再生モデル調査を始めとした入間小学校改修計画など、多くの地方都市部における活動を展開しています。
早稲田大学は首都圏に位置しているということで、高密度都市空間(ハイパーコンプレックス)や半透明空間研究の集落調査などを始めとして都市的なテーマを持つ研究も多く、研究室が発足して以降、地方への眼差しと都市への眼差しをバランス良く展開しています。二つの異なるコンテクストを持った研究や活動を一つの研究室内で同時進行させてゆくという体制は、地方都市の明確な研究課題を持った研究室からするとジャンクフード的とも捉えられがちであるとも考えることができるかもしれませんが、何か互いにフィードバックできる体制ができれば新たな展望への切り口となる下地ができるのではないかということが本企画を通して感じたところです(とはいえ、コンテクストがあまりに異なるが故に容易に結びつけることは非常に困難であり、ある種不可能性を伴うものでもあるとも考えられますが)。
このような機会は自らの研究を客観視できる良い機会であると強く感じましたし、ディスカッションという制約条件が厳しい中で相手に伝えるためには意見を明確化しなければなりません。学会というオフィシャルな情報公開の場とはまた違ったニュアンスを持ち、研究活動という非営利行為をどのように肯定してゆくかもこの建築トークインの一つの意義であり、他人の活動を受けてカウンター的に応答しなければならないという偶発性を伴う進行も学会とは異なる一定の価値創造にもつながってゆくかとも感じました。
減衰してゆく社会においては建築行為の責任が強烈に問い直されるという強い逆風が吹いておりその傾向はますます大きくなってゆくと予想される中で、営利目的でない研究の立場でないとなかなかシビアな状況に対する突破口を見いだせないのが現状かと思います。このような資本に結びつかない活動をいかに肯定し、社会的な評価を受けるかが今後の建築行為の地平を大きく切り開いてゆく端緒にもなるかと思います。
来年度以降もこの企画は続いてゆきます。毎年同じテーマで議論してゆくという形式的なものも伝統として残してゆくことの大事さも感じながら、毎年議題がマイナーチェンジしていくのも企画としても面白いのではないかとも感じました。
建築トークイン上越2009 ブックレット
2009年10月17-18日に新潟県浦川地区において「地方都市を救う建築」をテーマとして開催された『建築トークイン上越2009』のブックレットです。企画内容の説明、各レクチャー・セッションについてまとめられていま…